牛、肉、人をつなぐ。

但馬牛。
日本に古くから伝わる黒毛和牛の血統の一つで
田畑を耕すことに加え、肉質が秀でていたことから長い間人々に寄り添ってきました。その血統を持つ牛の中でも前躯はぐっと張り、後躯はクッと締まりのある全体的にコロンとした体型の牛がいます。但馬牛の特徴が良く出た牛です。
それが、京中の好みの牛です。

肉の質(食感・味わい・香り)は、牛一頭一頭で、異なります。キメが細かく、テリがあり、小豆色、脂の色はやわらかなクリーム色。そのような肉を選んだら温度・湿度が管理された熟成庫で寝かせます。すべての肉は枝肉の状態で。肉にあわせて約四~一二週間寝かせる。その過程を「枝肉熟成」と呼びます。熟成させた肉は、歯切れが良く、濃い肉味と強いうま味、上品な甘みに加え、やさしい熟成香を宿します。

農家さん

牛を育てる農家さんの仕事は、血統の吟味にはじまり牛を育てる毎日の餌や水のことから牛舎等の環境整備まで実に細かく多岐にわたります。
そして、その全てが肉質・味・食感・香りに影響するため農家さんは、その一つ一つに各々の思いと考えを持ち、牛を育て上げています。
肉を知るために牛を知り、牛を知るために肉を知る。私たちは、農家さんとの対話を通じて絶えず情報を交換・共有しております。農家さんという牛の作り手が、日々の仕事と思いを積み重ね、育てた牛。私たちは、肉屋という肉の作り手としての仕事と思いをそれに重ね、お客様へとつなぎます。

お客さん

お客様によって、お求めになるお肉は異なります。赤身/霜降り、噛み応えがある/やわらかい、といった個人的な「好み」。すき焼用/焼肉用/ステーキ用/…などの「用途」。調理時間や普段使い/ハレの日、ご予算といった「ご都合」。
それに対して、肉の味・食感・香りは牛一頭一頭異なり、さらに部位や熟成の具合によっても異なります。京中が考える肉屋の本分とは、お肉をお買い求めになる度毎に心からご満足いただけること。そのため、私たちは会話を通じてひとりひとり違うお客様の好みや用途を洞察し、多種多様なお肉から最適を選んで切り出しているのです。

あゆみ

あゆみ

京都中勢以の牛と人とのつながりは、精肉店として昭和五十六年に産声を上げるより九〇年ほど前、明治中期頃からの博労としての歩みから始まりました。牛を見立て、農家を知り、牛と農家、牛と肉屋をつなぐという仕事は、農家さんのために、という思いと共に今も脈々と受け継がれています。

昭和五十六年、加藤中謙と勢以子は、誰にも媚びず、己が心の底から望む「食」の提供に挑戦する「中勢以」(勢いを以て中庸を行く)を創業しました。「おいしいお肉」を最も良い状態でお届けしたい。その実現に向け、牛を選ぶために農家さんのもとに通い、牛と人を知ることを大切にしました。そうして仕入れたお肉を、お客さまに合わせ必要な部位を必要なだけ切り出し販売する「日本の肉屋」の形を守り続けています。

その思いは、加藤謙一(二代目)にも引き継がれ、肉を知るために米国コロラド州立大学でミートサイエンス修士号を修了し日本の肉屋を、世界と京都・東京から多角的に捉えることで、牛・肉・人をつなぐ「和」の心に改めて気づかされました。曾祖父母、祖父母、両親とつないできた農家と肉屋とお客さまの「和」の心をより多くの方々と分かち合うために、平成二十七年、レストラン「にくづき(にくづき)」、翌年、肉惣菜店「合(あい)」(現在は閉店)を立ち上げました。

令和元年、京都中勢以は京中(きょうなか)へ。
シンプルで読みやすく、親しみやすさを備えながら、加藤家が培ってきた肉の扱いを畜産農業に携わるみなさまと共有することがより多くのお客さまに「おいしいお肉」をお届けすることにつながると信じ、方法論あるいは哲学として「京中式」と再定義します。

令和六年、これまでの知識と経験を伝え、
つないでいくことで「お肉を食べる喜びの最大化」を目指す、熟成精肉店・肉サロン「京中 田園調布」を開店しました。 京中は、牛・肉・人のつなぎ手として、日々、肉屋を続けております。